『読むクリニック』 胆江日々新聞連載
従来の学校歯科保健は、むし歯などの疾病の早期発見、早期治療という疾病を基礎にした健康診断でありました。
平成7年度の学校保健法の改正では、「早期発見、長期観察」へと予防保健指導を重視する方向に傾いてきました。すなわち、スクリーニング検診(注)としての性格を強調しています。これは単に疾病異常の発見とその予防処置や受診勧告、ならびに観察するなどの事後措置にとどまらず、健康状態を把握し、将来を含む自分の問題として捉え、自主的な健康づくりに役立てることに意義があります。
そこで検診結果のお知らせを全員に渡すことは、その後の保健教育や定期的観察などの事後措置に重要な意義を持つようになり、健康教育活動と密接な連携を持つものとなります。
しかしながら、歯科疾患は高い罹患率の割に重篤な症状に陥る危険性は希であるため、児童生徒自身による健康管理意識の啓発を期待することは容易ではありません。そのためには、学校、家庭、かかりつけ歯科医の3者協力のもと、口の健康の大切さを、ある特定の時期だけでなく常に指導し、児童生徒が「自ら考え、実践行動する」意識を生み出す環境を作ることが大切であります。歯科疾患を有する子どもはなぜ多く、また減らないのか。学校健診のなかで疾病の方が健常より多いのは歯科検診ぐらいでしょうか。
水沢市においてむし歯経験者(虫歯がある人)は小学校6年で74.2%、中学3年生で75.4%です。したがって、むし歯がない子どもを探す方が大変です。歯肉炎も厳密には40〜50%はあり、30%以上が歯磨きで出血します。ここが医科の疾患と違うところです。日本人はまだまだ口の中に関する関心が低く、汚れていて、特に中学生、高校生の口の中の汚れは気になります。爪、頭髪、体毛などに対する関心は高く自分で手入れするけれど、目に見える前歯には歯垢がたまっていて歯ぐきが赤く腫れている子どもはたくさんいます。したがって子どものうちから口の中に関心を持ち、自分の口をよく観察し、正しいケアーの仕方を学習することは健康教育として大変重要であると考えられます。
最後に検診結果が治療勧告書に記載されて皆さんのお手元に届きましたら、なるべく早く歯科医院で治療を受けて下さい。又健診時は十分な態勢の元で行うことが出来ませんので、間違いがないとはいえません。そのようなときは、主治医と相談の上処置を受けて下さい。
(注)スクリーニング検診
治療、予防処置の必要があるかどうか、ふるい分けることを念頭においた診査
(第1回掲載分)
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子供を産むと歯が弱くなる?
よく昔から、子供を一人産むたびに赤ちゃんへカルシウムが取られ歯が弱くなると言われました。
それは間違いで、そう簡単に歯からカルシウムはなくなりません。
お母さんのカルシウムが不足すると、骨から供給されて歯から取られることはないのです。お母さんの歯が弱くなる原因の一つは、子供を産むために起きる女性特有のホルモンによる歯肉(歯ぐき)の変化と“つわり”であります。食習慣が変わってきて食べやすいもの、口当たりの良いものを頻繁に食べるようになり、また同時に、歯磨きが困難になります。そういったことが重なって歯をとりまく環境が変わった結果、むし歯になるのです。
むし歯も感染症
1歳半で5%前後、その2年後には50%弱の子供にむし歯ができます。むし歯もれっきとした感染症で、母親からの感染する確率が高い病気です。
感染と発病とはおなじことではなく、病気によって発病までに時間的な違いがあります。たとえばインフルエンザなどの病気は感染して2、3日後には発病します。しかし、むし歯という病気では、感染してから発病するまでに、乳歯の場合1年から2年ぐらいかかりますし、感染したからといって必ず発病するとは限りません。感染する病原菌の量も問題であります。
スウェーデンの研究によると、唾液の中のむし歯菌といわれている「ミュータンス菌」の数を両親とその子供で調べると、母親の「ミュータンス菌」の数が子供の「ミュータンス菌」の数に比例することや、遺伝学的に母親と子供の口の中の細菌の遺伝子型は似ていることが解ってきました。「ミュータンス菌」の多いお母さんの子供は、やはり「ミュータンス菌」が多く、むし歯も多く発生します。しかしながら、お母さんが「ミュータンス菌」が多いからといってガッカリする必要はありません。「ミュータンス菌」が住んでいるお母さんの歯垢(はかす)を一生懸命取り除けば、子供に「ミュータンス菌」が多く感染しないことも解ってきました。それでは、お母さんの「ミュータンス菌」が多いか少ないかの判定はどのようにしたらいいのでしょうかということになりますが、むし歯や処置歯の多いお母さんは、「ミュータンス菌」を多く持っていると考えることができます。お母さんは子供のためにも自分のためにも一生懸命歯磨きをがんばりましょう。歯科医院で歯科専門職からの器械的歯面清掃が効果的といわれていますので定期的な受診もよいでしょう。
(第2回掲載分)
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舌運動の発達
「噛んで食べる」こと(咀嚼)は、子供の成長と一緒に“自然に身につく”ものではありません。それは離乳体験にもとづく適正な練習(適正な離乳の進め方)があって、はじめて獲得できる「発達的な能力」です。したがって、その進め方が不適当だったら、いわゆる噛めない子供、噛むのがヘタな子供になってしまいます。
噛めない、あまり噛まない、丸呑みにするといった“咀嚼問題児”が、増えているといわれています。じつは、これら咀嚼問題の原因の大部分は、離乳期から1歳、2歳の頃に問題があるといってよいのです。咀嚼とは、口やあごに関係する数多くの器官が関連した複雑な運動ですが、その中でも「舌運動の発達」は、もっとも重要な役割を演じています。「舌運動の発達」は、単に食べることの機能的発達のほかに、ことばの発音機能の発達にもつながります。離乳食を食べさせる頃に、大人と同じ硬さのものを食べられるからといって、普通の子供より成長が早いと喜ぶ親がいましたら大変な間違いをしていることになります。舌運動の発達が普通の子供より遅れることがあるからです。
偏食と咀嚼
幼児を養育している保護者を対象に、子供の食事で困っていることを全国調査してみると、遊び食い、むら食い、偏食が上位3位まで占める。その中で偏食についてみると、約4人に1人の保護者が子供の偏食で困っていると答えています。子供の偏食については、食生活全体、また社会全体としての食生活が偏っていないかどうかについて考えてみる必要があります。最近の幼少年の嗜好調査によりますと、好きな食べ物として、ラーメン、カレーライス、ハンバーグの3種類が常に上位1〜3位を占めていますが、これらの食品の特徴は、そのカロリー比に脂肪の占める比率が高いことと、あまり咀嚼をせずに飲み込んでしまえることです。戦前の食事(半うるち米麦、味噌汁、炒め物、煮物、漬物)では平均1420回噛んで食べ、現在の子供たちが好む食事(パン、ハンバーグ、スパゲティー、ポテトサラダ、コーンスープ)では620回程度と減少しているとのことです。食生活に柔らかいものを好み、よく噛まずに丸呑みにするなどの咀嚼状況に問題のある子供たちの増加を招いています。最近、子供たちが好む今風(?)の食事は血清コレステロール値をアメリカの子供たちの値に近づけつつあり、生活習慣病(成人病)の予備軍を増やしているように思えます。
(第3回掲載分)
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−ブラッシング(1)−
歯の衛生週間によせて
6月4日から、歯の衛生週間が始まります。今回から3回にわたってブラッシングについてお話します。
[歯を磨くとは、どういう意味があるのでしょうか。]
ムシ歯、歯周病は風邪等と同じ感染症(微生物の感染が原因の病気)です。そして、私たちの口の中には、口腔常在菌(すべての人の口の中に常に存在する一定の細菌)が住み着いています。その中にはムシ歯を作る細菌、歯周病を引き起こす細菌,全身疾患につながる細菌等が含まれています。その一部の細菌(ストレプトコッカス・ミュータンス)が砂糖と出会うとネバネバしたものを作り、歯の表面にくっつきます。これが歯垢(プラーク)を形成する大部分のものです。現代の食生活をするかぎり、だれの口にも砂糖は入り、歯の表面には歯垢ができてしまいます。これが歯についたままになっていると、中にできた酸が歯を溶かしムシ歯を作ります。また歯肉炎も引き起こし、これが進むと歯槽膿漏になります。ですからこの歯垢を取り除くことが、大切になります。ブクブクゆすぎでも、ガムを噛んでも、リンゴを食べても歯垢は取れません。これが歯磨き(プラークコントロール)が重要な理由です。
歯磨きはすでに国民的レベルで普及しています。厚生省が調べた歯科疾患実態調査によれば、国民の99パーセントが歯を磨いています。それでもムシ歯、歯肉炎、歯槽膿漏は増えています。これは磨いても磨けていないことを物語っています。では、磨ける磨き方は?どのように磨けばいいのでしょうか。この磨き方の発見が必要になってきます。
人の歯、歯並びは大変複雑です。かみ合わせの部分には、深い溝が走り、歯と歯の間は大変狭く、その間には歯肉が盛りあがり隙間を埋めています。また人によっては、歯が傾いていたり重なり合っていたり、歯ブラシで満足に磨くのには至難の業です。歯垢を作る細菌は口の中の常在菌です。したがってこれをゼロにすることは出来ませんが、歯垢の害を受けないところまで磨くことは可能です。では、次回磨き方について詳しくお話したいと思います。
(第4回掲載分)
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−ブラッシング(2)−
歯の衛生週間によせて
今回は、ブラッシング(歯の磨き方)についてお話します。前回述べましたが、人の歯、歯並びは大変複雑です。完全にブラッシングすることは、至難の業ですが歯垢の害を受けないところまで磨くことは可能です。しかし、しっかりとしたブラッシング・テクニックとブラッシングに十分な時間をかけないと満足な結果は得られないでしょう.
[歯を磨く当面の目標は!] プラーク(歯垢)を歯の表面から、歯と歯肉の境目から、取り除くことです。
ではブラッシングで効率よくプラークを取り除くためには、どうすればよいでしょうか。
ポイントが3つあります。
1. 歯ブラシの選択
効率よく行うためには次の条件を備えた歯ブラシが良いと考えます。
・ 歯ブラシの柄がまっすぐなもの
・ 歯ブラシの刷面が平らなもの
・ 毛先が丸く処理してあるもの
・ 毛の硬さは普通(歯肉炎や歯周病の方は、歯科医師の指導を受けた方がよいでしょう。)
・ 毛先がつぶれて広がってしまったものは、適しません。
2. ブラッシング圧 (歯に押し当てる力)
力をいれすぎて良い事は1つもありません。力をいれて押さえつけて磨くと毛の弾力が働かなくなり、かえってプラークはとれません。きれいに磨こうとつい力が入ってしまい、逆効果の患者さんを多く診ます。
力のいれすぎは、
・ 歯ブラシをすぐだめにする。
・ 歯や歯肉が傷んでしまう。
・ 磨けているつもりが、実は磨けていない。
という3重の損がでてきます。プラークはベタベタした性質で、歯の表面についていますが決して固くついているのではありません。ナイロン毛の弾力を歯の表面で十分に働かせたとき、毛にまつわりついて簡単に取れるのです。ですから、毛の弾力を失わない程度の力で磨くことをお勧めします。
3. 歯ブラシの当て方、動かし方
・ 歯ブラシの当て方は歯面に歯ブラシを直角に当てること、また歯と歯肉の境目は毛先が溝にしっかり入るように当てること。
・ 歯ブラシの動かし方は基本的には力をいれすぎないように軽く当て、歯を1本1本磨くようにこまかい幅で同じところを10回程度往復させます。この動かし方によって一番磨き残しがある歯と歯の間に毛先が入り歯垢を取り除くことができます。歯1本単位で歯ブラシを横に移動させて全体を磨いていきます。歯の表面、歯の裏、かみ合わせの部分を自分で磨く順路を決めて磨き残しのないように行います。歯並びの悪いところがある人は歯ブラシをたてにして磨いたり、毛の先を入れて磨いたり各自工夫して磨く必要があります。
以上、3つにわけて説明してきましたが、自分で磨けているかどうかチェックするにはブラッシングしたあと歯垢染色液(カラーテスター)で歯垢を染め出すと磨き残しがどこにあるか分かります。鏡をみながらもう一度ブラッシングするとよいでしょう。磨けるブラッシングを習得するには時間がかかります。しっかり練習して8020をめざしてください。現在、歯肉炎や歯槽膿漏に罹患して悩んでいる方、磨き方がよく分からない方は歯科医院で一度指導を受けられることをお勧めいたします。次回は、ブラッシングの最後になりますが、歯垢を取り除く補助器具についてお話いたします。
(第5回掲載分)
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−ブラッシング(3)−
歯の衛生週間によせて
今回は、3回シリーズでお話してきましたブラッシングの最後になります。
プラークコントロール(歯垢除去)にはかかせない補助用具についてお話します。
□歯間ブラシ
歯間ブラシの最大の特徴は使うと大変気持ちがいいことです。歯間ブラシを使用しているほとんどの人が「使ったあと気持ちがいいですね。」と言ってくれます。歯間ブラシの活躍の場は、通常歯ブラシの届かない所です。歯の隣接面(歯と歯の間の面)には、凹面があり歯ブラシ・デンタルフロスも届かないところがあります。この場所は、歯間ブラシの独壇場です。では使い方について詳しく説明します。
@歯ブラシでよくブラッシングした後で歯の間を歯間ブラシで磨きます。
A つま楊枝の要領で、歯の間に通し4〜5回前後に動かします。このとき、歯の間の空きが少ないところに太い歯間ブラシを通すと歯肉に傷をつけてしまいますので、歯の間の空きに合わせて歯間ブラシを選びます。(サイズは4種類程度あります)
B奥歯の間を通すときは、針金の部分をゆるやかに曲げて使うと通しやすくなります。
C歯間ブラシで一番問題になるのは出血です。歯肉が赤くただれているときは、ちょっと触っただけで出血します。このようなときは無理やり使用せず、ブラッシングで歯肉の炎症をおさえてから使います。
D 歯間ブラシの根元の針金部分を何回も折り曲げて使うと折れることがありますので注意が必要です。
E歯垢染色液(カラーテスター)で歯垢を染め出した後、歯間ブラシを使用してみて下さい。歯の間の歯垢がきれいに取れていることがよくわかります。
□デンタルフロス
フロスは、歯と歯の接触した部分の清掃に便利です。この部分は歯ブラシ・歯間ブラシでも届かない所ですから、フロスに頼るしかありません。
フロスの使い方には2通りの方法があります。ひとつは指に巻きつけて歯の間に通す方法、もうひとつはホルダーにフロスがついたものでホルダーを持って使う方法です。どちらでもかまいませんが使いやすい方法を選んでください。(どちらも市販されています。)
@ここでは、指に巻きつけて使う方法を説明します。まずはフロスを30センチ切り取り、フロスの端を結んで輪にします。
A 薬指と中指でフロスを持って人差し指でフロスを固定します。右手人差し指と左手人差し指の間の部分は短くしてピンとフロスを張ります。歯と歯の間にフロスを入れるとき(歯の接触がきつい方は特に)気をつけないと勢い余って歯茎まで傷をつけてしまいます。
Bノコギリの様に左右に動かしながら入れます。フロスは歯と歯の接触部分のムシ歯予防に最適です。気軽に食後のチェックに使用してください。(つま楊枝を使って取るより確実ですし弊害も少ないです。)
Cフロスを歯の間に通したら一本ずつ歯の面に沿わせながら動かします。
Dフロスの糸が切れやすい方は冠に段差があったり、ムシ歯になっている可能性があるので歯科医に相談してください。
その他にも電動歯ブラシや口腔洗浄器などがありますが、つぎの機会にご紹介したいと思います。以上でブラッシングのお話は終わりです。日本は世界で一番の長寿国になりました。年をとっても自分の歯でなんでもおいしく食することができればすばらしいことです。そのためにも予防の基本となるブラッシングをしっかり身に付け自分の歯を長持ちさせたいものです。もっと詳しくブラッシングについて知りたい方は、かかりつけの歯科医にお尋ねください。
(第6回掲載分)
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−歯の神経の治療−
歯が痛くて眠られなかったという経験をお持ちの方は結構多いと思います。それは実に耐えがたい痛みで、人間が感じる痛みの中でもかなり強度の痛みと位置付けられています。
歯痛の原因にもいろいろありますが、このような強い歯の痛みは、歯髄炎と呼ばれる歯の内部の神経、血管、リンパ管などが詰まっている組織の炎症が原因のことが多いのです。ムシ歯の進行度で言うと図3のような状態です。図3のような状態になれば必ず痛みがでるかと言うと、決してそうとは限りません。痛みがでないこともあります。痛みがあるなしにかかわらず、図3のようにムシ歯が歯髄まで到達すれば、歯髄を取る処置(一般には神経を取ると言います。)が必要になります。
この時点でも治療しないで放置しておきますと、自覚症状はしだいになくなりますが、ムシ歯は進行し続け、図4のような状態になります。歯髄(神経)が死んでしまい、歯の内部や根っこの中までが細菌感染を起こしている状態です。このような状態を感染根管といいます。こうなると、根の周りの骨までも炎症を起こしてきて骨が破壊されてきます。それでも自覚症状がないこともあるのですが、時として、痛みを伴い歯茎や頬っぺたまで腫れてくることがあります。この時の痛みも歯髄炎に劣らぬ強いものです。進行の状況によっては骨髄炎を起こすこともあり、非常に怖い状態と言えます。
図4の状態の処置は、図3の状態の歯髄を取る処置と似ているのですが、細菌が根っこの中まで入り込んでいるために、細菌感染をおこしている部分をさらに取ってあげなければなりません。両処置とも最終的には根っこの中に詰め物をしたのち、冠などを装着することになります。
歯の神経の治療対象として、ごく一般的な例を説明しましたが、ムシ歯の進行度とは関係なしに、歯髄炎を起こしたり、感染根管の状態になることもあります。また、歯の崩壊が激しいものや、骨の炎症の状態によっては抜歯などの外科処置になることもありますので、いちがいに見た目だけでは判断できないところもあるのです。
とにかく、歯の病気は、他の病気と違って、ほとんど自然治癒(放っておいても自然に治ること)がありません。一度病気になると進行し続けるというところが特徴です。また、歯の治療の多くは、一度失った物を他の物で補うという、義足や義眼と同じような処置とも言えるのです。補った物では、もとの機能を完全に取り戻すことはできません。
したがって、病気すべてがそうであるように、歯の病気はさらにも予防、早期発見、早期治療が必要です。
(第7回掲載分)
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−歯肉炎について−
歯肉炎ってどんな病気?
歯肉炎は、歯肉が赤く腫れる病気で歯周病の一種です。歯周病には、歯肉炎と歯周炎とがあります。歯肉炎を放置して悪化した状態を歯周炎と考えて下さい。歯周炎については、後で特集がありますので、今回は、歯肉炎について書かせていただきます。
歯周病(歯肉炎)は若い人もかかっている!
平成5年の歯科疾患実態調査報告によると10代の若者のなんと60%近くの人が歯肉炎に罹っています。10歳未満のこどもでも20%くらいが歯肉炎に罹っているとのデ−タ−があります。実際、小学校の歯科検診においても歯肉炎は、よく見かける病気で虫歯についで第2位の罹患率の病気です。
歯肉炎の原因は?
歯肉炎の原因は、プラ−ク(歯垢)です。歯と歯肉の間の溝(歯肉溝)にプラ−クがたまり歯肉に炎症が起きた状態が歯肉炎です。歯肉が炎症で腫れ上がるとみぞが深くなり、ポケットができます。そしてポケット内のプラ−クで歯周病菌がいっそう繁殖し、歯石もできて歯周病は勢力を増していきます。小学生や中学生の歯周病は主にこの段階までの状態が多く、この歯肉炎までなら健康な歯肉に戻すのもそんなに難しくありません。しかし、この歯肉炎の状態が長く続くと炎症が歯を支える歯槽骨にまでおよびやがて病名も歯周炎に変わっていきます。以前は、歯槽膿漏とよばれていた状態で歯茎から膿がでて歯がグラグラと動くようになり、やがて歯が抜け落ちるという怖い病気です。
プラ−ク(歯垢)ってなに?
プラ−クは食べ物のカスのように見えますが、じつは歯周病菌や虫歯菌をはじめとする微生物のかたまりです。プラ−ク1mgに1億個以上の微生物がいるといわれています。
歯肉炎は、この中の歯周病菌がひきおこす病気なのです。
健康な歯肉の状態を知ろう!
健康な歯肉は、ピンク色でキュッとひきしまっていて歯と歯のあいだは、とがった三角形です。
歯肉炎の歯肉は、赤く腫れてぶよぶよしていて歯と歯のあいだはまるくふくれています。
歯肉炎を予防するには?
歯肉炎の原因はプラ−クです。ですから歯肉炎の予防は、まずプラ−クを確実に取り除くことです。これをプラ−クコントロ−ルといいます。プラ−クコントロ−ルの基本は、毎日の歯みがきです。自己流ではなかなかうまく磨けません。あなたにあった歯みがきの仕方を歯科医院で教えてもらいましょう。朝、昼、晩3回の歯みがきをしていても歯肉の中のかくれたプラ−クはなかなかとれません。半年に1回くらいは歯科医院をおとずれていただき、かくれたプラ−クや歯石をとってもらうことをおすすめいたします。
(第8回掲載分)
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−歯並び−
歯の並び、及び上下のかみ合わせが正常でない状態を「不正咬合」といい、単に見た目のよしあしだけでなく、それが原因で様々な影響が出ることがあります。そこで、「不正咬合」にはどのような種類があるか、それによりどんな影響が生じるかについて、お話します。
歯と歯が前後左右にずれて重なっている状態を、叢生(乱ぐい歯、八重歯)といいます。叢生の場合、歯ブラシがすみずみにまで届きにくいので、虫歯や歯肉炎の原因になります。
上の歯が極端に突き出ている状態を、上顎前突(出っ歯)といいます。前歯が出ていると、歯が折れたり唇が切れたりしやすく見た目も気になります。
下の歯が上の歯より前にある状態を、反対咬合(受け口)といいます。食べ物がよくかめないだけでなく、発音がうまくいかずに聞き取りにくい話し方になる場合があります。
奥歯がかみ合っているのに前歯がかみ合わない状態を、開咬といいます。前歯で食べ物をかみ切りにくいだけでなく正しい発音が難しくなります。
下の前歯が見えない程前歯のかみ合わせが深い状態を、過蓋咬合といいます。ひどい場合は、下の前歯が上の内側の歯肉を傷つけてしまいます。
上下の歯のかみ合わせが左右にずれている状態を、交差咬合といいます。顔貌が左右非対称になることがあります。
そして、次のような日常生活のふとした不注意が歯並びを悪くするきっかけになっていることがあります。
まず、3?4歳を過ぎてからの頻繁な指しゃぶりは、上顎前突(出っ歯)や開咬の原因となります。
また、アレルギー性鼻炎や扁桃腺などの耳鼻科疾患により、口で呼吸する癖がついてしまうと、同じように、上顎前突(出っ歯)や開咬の原因となります。
体の同じ方を下に向けて寝る、頬づえをつくことは、交差咬合の原因となります。これらの癖は、無理に止めさせるのではなく、徐々に直すようにしましょう。
子供の頃にしっかりと食べ物をかんで食べたかどうかで、歯並びは大きく変わります。軟らかいものやインスタント食品ばかり食べていると、あごが発達せずに小さくなってしまいます。あごが小さいと歯の生えるスペースが狭くなり叢生(乱ぐい歯、八重歯)の原因となります。歯ごたえのあるものを取るように心掛けましょう。
もし、「不正咬合」が気になるときは、かかりつけ歯科医に早めに相談することが大切です。
(第9回掲載分)
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今回は、いったい歯はいつ頃からどのようにして作られるか。
また、歯のための栄養の取り方についてお話しします。
[歯の発生時期]
・妊娠初期:胎生6〜7週(妊娠2ヶ月はじめ)から歯の形成が始まります。
その後、歯の土台となる歯胚(歯の基となる細胞の集まり)
が出来始めます。この時期には、胎児も人間らしくなってきます。
・妊娠中期:妊娠4ヶ月になると胎盤が完成し、胎児と母体との血行が確立します。
この時期は、各乳歯のエナメル質・象牙質が作り始められます。
同時に永久歯の一部の歯胚も出来始めます。
・妊娠後期:妊娠7ヶ月になると、胎児も1`ぐらいに成長し出産まで母体内で
成長を続けます。この時期は、母体からどんどん栄養を取り、
乳歯は完成に近づきます。永久歯も乳歯の下で発育し乳児期には、
ほぼ完成します。
以上、歯の発生についてお話ししましたが、生えてくる歯が強いか弱いかは
この時期(妊娠中)に決まると言われています。つまり、じょうぶな歯を作る
ためには、お母さんのお腹にいる間、永久歯においては乳幼児期にバランスの
取れた栄養補給が大切になってきます。では、歯のためのバランスの取れた栄養
とは、どういうものなのでしょうか。歯を作るために特に大切な栄養素を挙げて
みます。
・タンパク質:歯の土台を作る基礎となるものです。
歯にカルシウムが定着するのを助けます。
歯胚が作られる妊娠初期に特に必要です
魚・卵・牛乳・豆腐
・ビタミンA:歯のエナメル質の土台作り。
妊娠中期に特に必要です。
豚・ほうれん草・にんじん・レバー
・ビタミンC:歯のもう一層下の象牙質の土台作り。
妊娠中期に特に必要です。
ほうれん草・みかん・さつまいも
・カルシウム:歯を硬化(歯を硬くする)させ歯を作る材料になります。
妊娠中に必要なカルシウムの所要量は900〜1000mgと
されています。牛乳ですと一日400〜600ccとされています。
ひじき・チーズ・しらすぼし・牛乳
・リン :カルシウムと合わせて歯を作る材料になります。
米・牛肉・豚肉・卵
・ビタミンD:カルシウムとリンの吸収を助けます。
硬化を調整します。
バター・卵黄・牛乳
歯に必要な栄養素をあげましたが、歯の栄養と言えばカルシウムと思われ
がちですが歯の土台を作るのはタンパク質、歯の仕上げをするのがビタミン類、
そして歯を硬くするために必要なのがカルシウム・リンです。
一回の食事でこれらの栄養素を過不足なく取ることはむずかしい事です。
また妊娠中は食欲がなくなることもありますが、できるだけ一日3回きちんと
食事をすることが大事です。
出産後において母乳でほぼ完全な栄養をとることができますが、離乳食から
幼児期の食事は、お母さんの腕にかかっています。
子供の偏食(栄養のバランスの低下)・砂糖の過剰摂取(むし歯の原因)・薄味
の励行(味覚の発達を促す)・硬さのあるもの(筋肉、あごの発達)など子供の
食生活には注意しなければならないことが沢山あります。一生歯で悩まないように
するためにも家族の役割は大変大きいものです。
(第10回掲載分)
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