『読むクリニック』   胆江日々新聞連載

 歯科治療と薬剤

 今回は、
 
1.歯科治療の際に処方する主なお薬について、
 
2.口腔領域に現れるお薬の副作用について
                     少し触れてみます。

1.一般の歯科治療で主に使用するお薬は、それ程多くはありません。主に使用する事があるお薬といえば、鎮痛剤(痛み止め)や抗菌剤(化膿止め)、抗炎症剤(腫れを押さえる)等であり、虫歯が進行して生じる急性の歯髄炎(歯の神経が炎症を起こしている)や急性根尖性歯周炎(死んだ歯の神経をそのままにしていたために、歯の根の先が化膿したもの)、歯周膿瘍(いわゆる歯槽膿漏症が原因で、歯肉が腫れてきたもの)そして、これらが更に進展して顎の骨まで達した顎骨周囲炎等の時に、炎症を起こしている歯の神経を除去したり、歯肉が腫れている場合は、切開して、膿を積極的に出した後に、一時的に使用するものなのです。
 原因となる元を正さなければ、虫歯や歯周病等は確実に悪化致しますし、更に、お薬による一時凌ぎの繰り返しの結果、最近では、虫歯・歯周病等を原因とする、難治性感染症の一つでもある下顎骨骨髄炎等が増加しているといった事や、重篤な感染症を引き起こし死亡に至った例もちらほら報告されてきており、危惧すべき事のように思われます。
 痛みは、本来、生体防御反応の一つであり、貴方の歯や歯肉、あるいは口腔内周囲が助けを求めているシグナルなのです。
 よって、これら口腔感染症を防ぐためにも、日頃からかかり付け歯科医を持って、定期的に口腔の健康を管理しておく事が大切な事と思われます。

2.お薬の副作用として口腔領域に現れる症状
 どんなお薬にも、大なり小なり表裏一体になった副作用があります。くすりは、逆から読むと「リスク(危険)」とも読めますね。
 その中でも、、口腔領域に現れる症状としては、@ 歯肉の肥大やA 唾液の出が悪くなり、摂取や嚥下に支障が現れる場合B 味覚に障害が現れたり、又、C オーラルジスキネジアといって、口をもぐもぐさせたり舌なめずりを生じる場合もあります。更に、口内炎、口唇炎等も現れる場合があります。
 尚、お薬の組み合わせによっては、相互作用(お薬が効き過ぎたり・お薬の効果を弱めたり、予期せぬ副作用が出現したり)が生じたりする場合もあります。よって、特に、現在何らかの病気でお薬を服用なされている方は、ご自分の病名・現在飲んでいるお薬の名前等は良く覚えておき、歯科治療を受けられる際に、かかり付け歯科医にお話し下さい。

(第25回掲載分)

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 シーラントとは

 虫歯進行予防のために歯の虫歯になり易い溝の部分をつめて、溝をなくしてしまうことです。材料は高分子で、レジンと呼ばれるものですが、プラスチックの一種と考えてください。これを行うことによって、歯牙の表面の溝が無くなり、歯の汚れを歯磨きで簡単にきれいにすることが出来ます。 また、溝を埋めるだけですので、歯を削らなくてもすむという特徴も持っています。但し、溝のみを埋めているものですから、時には脱離したり破折したりする事があり、虫歯予防の観点から考えれば定期的に観察する必要があります。定期検診を行わなければ効果的ではないといえます。

 さて、6歳臼歯は第一大臼歯と呼ばれるものですが、乳歯列の奥に歯ぐきを破って出てきます。その時半分ほどしか阻み得ず、残りが歯ぐきの内という場合もあります。この時期などは清掃がうまくいかず、歯ぐきが赤く腫れてみえたり、時には歯ぐきを噛んでしまい痛みを起こすことがあります。そして歯は萠え続けて、しまいには上下の第一大臼歯で噛み合うようになります。従って第一大臼歯が歯ぐきから顔を出してから噛み合うまでの間、歯は汚れやすい状態におかれているということです。

 そこで胆江歯科医師会では6歳臼歯の保護・育成という目的で、シーラントに積極的に取り組んでおります。8020達成者に6歳臼歯が多く残っていることから、この歯をキーポイントと考えました。この6歳臼歯を守ることが8020の一里塚というわけです。

 シーラントは胆江地区のほとんどの歯科医院で、行われています。通常は保険治療で行うことが出来ますが、希に、予防のみを目的とした場合には保険が適用にならない場合もありますから事前に歯科医院で相談をするとよいでしょう。

(第26回掲載分)

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 フッ素

 フッ素は自然の中に広く分布している元素の一つです。フッ素が歯のケアに使われ始めたのは、フッ素が含まれている飲料水が供給されている地域の人々に、むし歯が非常に少ないことが20世紀初めのアメリカで発見されたからです。研究してみるとフッ素を適量使えば、確かにむし歯を防ぐことがわかりました。現在、水道水のフッ素添加が世界37カ国で実施されており、約3億人の人々がその恩恵を受けています。実はショ糖の摂取量は欧米に比べて日本がかなり少ないにも関わらずむし歯の罹患率が相変わらず高いのは、フッ素の利用が大きく遅れたからだといわれています。

 その理由の一つは、フッ素は歯質をもとから強くし、酸に負けない歯をつくることができるからです。つまり、フッ素はフルオロアパタイトをつくり、歯の表面のカルシウムやリンなどのミネラル分が溶ける(脱灰)のを防いでエナメル質を強くします。また、エナメル質にミネラルがつくのを(再石灰化)、手助けします。もう一つは、フッ素が口の中のむし歯菌や、菌が分泌する酵素の働きを抑えようとします。

 フッ素は歯が生えたての頃ほど吸収しやすいので、前歯が生えそろった頃に歯科医院で1度ぬってもらい、その後定期的にぬってもらうプログラム(3?4カ月ごとの定期検査)に従うとよいでしょう。歯磨き剤の中のフッ素は濃度が低いのでそのまま使い続けてかまいません。小さいうちはなめてしまうお子さんもいるでしょうが、メーカーもそれは考えに入っていますので、適量は使ってかまいません。ただしフッ素をぬったからといって安心せずに、だらだら食べや甘いものに注意して、きちんと仕上げ磨きを続けてください。現在では、成人(特に高齢者)の歯根面う蝕(歯の根元にできてしまうむし歯)が問題となっていて、それにも用いるようにしています。

 フッ素は特別な薬品ではなく、イワシなどの魚類、海草、牛肉、塩、お茶など広くいろいろな食べ物にもともと含まれていますので、私達は毎日いくらかはフッ素を食べていたのです。安全で、しかも歯質の強化に有効なフッ素の取り込み方を歯科医院でご相談ください。

(第27回掲載分)

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 口内炎

一口に口内炎と言っても、口腔粘膜疾患は、診断及び治療が難しいものです。今回は口腔粘膜疾患の中でも、日常比較的よくみられるびらんないし潰瘍を生じる疾患を説明します。潰瘍とは簡単に言えば、びらん(浅いただれ)よりも深い組織の欠損のことです。

 「褥瘡性潰瘍」ムシ歯や破折歯の鋭縁、露出した乳歯根、不適当な義歯、金属管、充填物などのくり返しの刺激によって、舌、頬粘膜などに潰瘍を形成した状態です。通常痛みはそれほど強くはありません。治療は原因の除去によって1週間ほどであとかたもなくなりますが、長期間の刺激の持続によっては、悪性化することもあると言われていますので、早めに原因の除去を行うことが大事です。また、癌性潰瘍の場合には、一般的に痛みはなく、触れると硬くコリコリしていて、局所刺激物を除去しても治りません。

 「再発性アフタ」 アフタとは、口腔粘膜にできる円形の小さな浅い潰瘍のことです。しょっぱいものや辛いものを食べると、しみてつらいものです。WHOによると、小アフタ型、大アフタ型、疱疹状潰瘍型の三つに分類されています。原因は不明ですが、精神的ストレス、栄養障害、食物アレルギーなどが誘因として考えられています。治療は、ステロイド入りの口腔用軟膏や貼付剤を、食間や寝る前に塗布するのが効果的で、何より口の中を清潔にすることが大事です。低出力のソフトレーザーの照射も有効とされています。また、再発性アフタは、まれに難病と言われるベーチェット病が隠れている場合もありますので、注意が必要です。

 「ヘルペス性歯肉口内炎」 ウイルスが原因で生じる口腔粘膜疾患では、もっとも多いものとされています。小児に多く発生し、38-40℃の高熱、カゼをひいたときのような全身状態を伴い、口腔粘膜に1-3oの水疱(水ぶくれ)ができ、まもなく破れてびらん、潰瘍を形成し、食事が困難になります。やがてかさぶたにおおわれ、二週間位で治ります。成人の場合は口唇ヘルペスとしてみられることが多いです。治療は、小児ではうがい薬による消毒、栄養補給、安静を主体に、成人では、抗ウイルス剤、二次感染防止に抗生剤、解熱鎮痛剤、ビタミン剤などを投与します。

(第28回掲載分)

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 高齢者と口腔

高齢になって問題になるのが、まず欠損(歯が抜けた状態)です。奥歯一本の欠損でも、噛み砕く効率は、約30%さがってきます。通常28本の歯が生えてきますが、通常の食事をとるのに必要な本数は19本と言われています。これは、義歯無しでも肉やイカなどを家族と同じ調理方法で食べられる限界の本数です。そこで最近の平均寿命を言われる80歳迄、食する楽しみを残すため90歳になっても20本以上の歯を残しましょうと、日本歯科医師会では、8020運動というものを展開しています。8020運動は食事の摂取ばかりの問題ではありません。ある調査によると、8020運動を達成している人は、何でも良く噛んで食べられているせいか、全身疾患も少なかったり、軽度なため、ひては総医療費も少なくなるというデータ間であります。欠損が少ない場合にはブリッジ等で、多数の場合には部分義歯あるいは総義歯を作って8020に近い状態にしておくことが必要です。

 しかし、虫歯が多く80歳になってから8020をめざしても無理な話です。702360245025等ひいてはもっともっと若い頃、永久歯が生えてくる6歳前後から虫歯や歯槽膿漏の予防に心がけることが必要となってきます。是非、かかりつけ歯科医という先生を持ち、若い頃は虫歯のチェック、予防治療、青壮年期は虫歯は勿論のこと、欠損してしまったところにブリッジやとりはずしの入れ歯を作り、各年齢層のチェック本数をクリアしていくことが必要です。風邪などでは安静にしておくことにより治癒することも多いですが、歯だけは、いったん虫歯になったり高度の歯槽膿漏になった場合には自然に治癒することはなく、専門医による的確な治療が不可欠となってきます。

 又、高齢になると加齢により、唾液の出が少なくなってきます。それにより口腔乾燥による口腔乾燥症や口内炎が出来やすくなってきたり、総義歯の吸いつきが悪くなってきたりもします。

又、在宅療養者においては、ついつい口腔の清掃が見逃されがちです。その結果、高度の虫歯や歯槽膿漏にかかっている場合が多く見られます。そのような場合にはかかりつけ歯科医か各自治体の保健担当に問い合わせてみてください。最近では器械設備の進歩等や各自治体・歯科医師会の連携により在宅で診療所と同じ治療を受けられることが、出来るようになってきています。心当たりの方は、一度かかりつけ医に相談してみましょう。

(第29回掲載分)

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 ウ蝕(むし歯)予防

 私達が炭水化物や糖質を摂取すると、それらはプラーク(歯垢)中などの口腔細菌によって 分解され,代謝産物としての有機酸がプラーク中に放出されます。 細菌が合成するプラークは唾液を通しにくいため有機酸はしだいに蓄積していき、プラーク中のpHが低下し歯質が溶け出し脱灰が始まります。

 う蝕の主な原因菌としてはミュータンスレンサ球菌(MS菌)と乳酸桿菌があります。 乳酸桿菌は糖質を発酵させエナメル質や象牙質のう蝕を拡大させますが、バイオフィルム (粘着性の細菌の集団?)を形成しないため、自分自身では平滑な歯面には定着できません。しかし、MS菌はバイオフィルムを形成するので、ここに砂糖が提供されると粘着力が 増し、がっちりと定着してしまい、除去することは容易でなくなり、その中で酸を作りだしう蝕になってしまうのです。

  さて皆さんは、歯の再石灰化というのをご存知でしょうか。

食事をすると口の中が酸性になり、pHが低下し5・5付近になると歯質がイオンとなって溶け出す脱灰が始まります。 そして食事が済んでしばらくしてpHが再び上昇してくると、今度は脱灰した箇所に唾液中のカルシウムやリン酸イオンが吸着する再石灰化が始まります。 皆さんの口の中では、毎日何回も脱灰と再石灰化が繰り返されているのです。 つまり、自分の気がつかないところで防御機能が働いている訳です。 しかし、不規則な食事や間食が多かったり、好んで砂糖分の多い食べ物を取ったり、食後のブラッシングを怠っていると、脱灰ばかりが進行し、再石灰化が追いつかず、せっかくの防御機能が無駄になってしまうのです。 一生懸命ブラッシングしてたのに、う蝕ができたり、フッ素塗布や洗口をしてきたのに、う蝕になってしまったという経験はありませんか。 有効な手段をとっていたはずなのに、なぜ防げなかったのでしょうか。 それはう蝕の原因が1つではないからです。生活習慣も原因として挙げられるでしょう。 原因が1つではないのですから、予防方法も1つではないのです。

 予防方法としてはフッ化物の利用があります。フッ化物には歯の表面をハイドロキシアパタイトから更に硬いフルオロアパタイトに強化する作用と、脱灰した歯質にカルシウムを 再沈着させる作用があります。 また、生活習慣の中で、規則正しい食事と適切なブラッシングで再石灰化の機能を充分に果たさせること、そして、砂糖に変わり天然素材である代替甘味料のキシリトールをうまく活用する方法があります。 キシリトールを使用すると、プラークの量が減り、MS菌の付着が減少するため、結果として再石灰化にもつながる効果があります。 更に、専門家から定期的な指導や、歯面のクリーニングを受けたり、シーラント充填や 口腔内の除菌をすることはとても有効な手段なのです。

 このように複数の予防法を組み合わせないとなかなか効果が出ないのも、う蝕予防の特徴と言えるのです。 複雑な口腔内の環境因子を理解するために、専門家に相談して、それぞれに合った予防を してみると良いでしょう。

(第30回掲載分)

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